コラム

相続人に認知症の方がいる場合の遺産分割 成年後見の申立てが必要になるケースと注意点

※ この記事は、判断能力が低下した方が相続人となる場合の遺産分割に関する一般的な解説です。この記事は令和8年9月時点の法令・制度に基づいています。成年後見制度については、令和8年6月24日に見直しを内容とする改正民法が公布されており、施行後は制度が大きく変わる予定です(本文4-5参照)。

1 結論:判断能力が十分でない相続人がいると、そのままでは遺産分割協議ができず、成年後見人等の選任が必要になることがあります

遺産分割協議は、相続人全員が内容を理解したうえで合意する法律行為です。認知症などにより判断能力(意思能力)が十分でない相続人が署名・押印しても、その協議は無効とされるおそれがあります(民法3条の2)。

このような場合には、家庭裁判所に後見開始(または保佐・補助開始)の審判を申し立て、選任された成年後見人等が本人に代わって(または本人に同意して)遺産分割協議に参加する方法が考えられます。

2 「認知症=必ず後見が必要」ではありません

認知症の診断を受けていても、症状の程度はさまざまです。遺産分割の内容を理解し、自分の意思で判断できる状態であれば、本人が協議に参加できる場合もあります。一方、診断名がなくても判断能力が著しく低下していることもあります。

判断能力の程度は、主治医の意見などを踏まえて慎重に確認する必要があります。家族が本人の代わりに署名する(代筆する)ことは認められませんので、ご注意ください。

3 後見開始の申立ての基本

  • 申立人:本人、配偶者、四親等内の親族など
  • 申立先:本人の住所地の家庭裁判所
  • 費用:申立手数料として収入印紙800円分、登記手数料として収入印紙2,600円分、連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに異なります)。本人の精神の状況について鑑定が行われる場合は、鑑定費用がかかることがあります。
  • 主な必要書類:申立書、本人の戸籍謄本・住民票、医師の診断書、本人の財産や収支に関する資料など(裁判所ごとに書式が定められています)

4 事前に知っておきたい注意点

4-1 後見人は家庭裁判所が選ぶ

申立書に後見人の候補者を記載することはできますが、家庭裁判所は本人の財産の内容や必要な援助の内容に応じてふさわしい人を選任するため、希望どおりに選ばれるとは限りません。専門職が選任されることもあります。

4-2 現行制度では、後見は遺産分割が終わっても続く

成年後見は、遺産分割のためだけの一時的な制度ではありません。原則として、本人の判断能力が回復するか本人が亡くなるまで続き、後見人は家庭裁判所への定期的な報告などを行います。専門職が後見人となった場合には、報酬が発生することがあります。

4-3 本人の利益を守る内容が求められる

後見人は本人の利益を守る立場にあるため、本人の取得分を不当に少なくするような遺産分割に応じることは難しいのが通常です。実務上、本人の法定相続分を確保する内容が求められることが多いとされていますが、具体的な扱いは事案によります。

4-4 後見人も相続人の場合(利益相反)

例えば、母の後見人である子が、父の相続で母と一緒に相続人となる場合は、後見人と本人の利益が相反します。後見監督人がいない場合には、特別代理人の選任が必要になります(民法860条・826条)。

4-5 成年後見制度の改正(令和8年6月24日公布)

令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」により、成年後見制度は、後見・保佐を廃止して補助の制度に一元化し、特定の行為について権限を付与する仕組みを基本とする方向で見直されます。また、本人の判断能力が回復していなくても、制度を利用する必要がなくなった場合には、申立てまたは職権により利用を終了できる仕組みが設けられます。

この改正は、公布から2年6月を超えない範囲で政令で定める日に施行される予定です。施行までは現行制度(本記事の3・4-1〜4-4の内容)が適用されますので、手続を進める時期によって取扱いが異なる点にご注意ください。

5 遺産分割をしない選択肢も含めて検討する

後見の申立てには時間と費用がかかり、その後の負担も続きます。そのため、ご事情によっては次のような方法を検討することもあります。

  • 被相続人の遺言があれば、遺言に基づいて手続を進める
  • 法定相続分どおりの相続登記をする(遺産分割協議を伴わない)
  • 相続登記の申請義務との関係では、相続人申告登記を利用する

ただし、法定相続分での共有にすると、将来、不動産を売却する際に改めて本人の判断能力が問題になるなど、別の課題が生じることもあります。どの方法が適しているかは、財産の内容や今後の予定によって異なります。

6 司法書士の役割

司法書士は、後見開始申立書の作成、戸籍や財産資料の収集、遺産分割協議書の作成、相続登記の申請について、ご相談・ご依頼をお受けできます。また、司法書士が成年後見人等の候補者となることもあります。

7 よくある質問

Q. 後見の申立てから選任まで、どのくらいかかりますか?

A. 鑑定の有無や裁判所の状況によって異なります。遺産分割のスケジュールを考える際は、余裕をもって準備しましょう。

Q. 保佐や補助との違いは何ですか?

A. 本人の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助のいずれかが選ばれます。保佐人や補助人が遺産分割に関与するには、同意権や代理権の範囲を確認する必要があります。

Q. 相続人本人が施設に入所していても協議はできますか?

A. 入所の有無ではなく、判断能力があるかどうかが問題になります。判断能力があれば、郵送による持ち回りで協議書に署名・押印してもらう方法もあります。

8 まとめ・ご相談の目安

判断能力が十分でない相続人がいる場合、遺産分割には成年後見人等の関与が必要になることがあります。次のような場合には、ご相談をご検討ください。

  • 相続人の中に認知症の方がいて、協議ができるか不安がある
  • 後見の申立てと遺産分割のどちらを先に進めるべきか分からない
  • 後見を利用せずに済む方法がないか知りたい

当事務所では、成年後見の申立て、遺産分割協議書の作成、相続登記の申請について、ご相談・ご依頼をお受けしています。

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