コラム

相続人が行方不明のときの遺産分割 不在者財産管理人と失踪宣告の使い分け

※ この記事は、相続人の中に行方が分からない方がいる場合の一般的な解説です。この記事は令和8年9月時点の法令・制度に基づいています。個別の事情により結論が異なることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。

1 結論:行方不明の相続人を除いて遺産分割はできません

遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があります。相続人の中に連絡の取れない方や行方が分からない方がいても、その方を除いて話し合った遺産分割協議は、原則として無効です。

行方が分からない相続人がいる場合に使われる主な方法は、次の2つです。

  • 不在者財産管理人の選任(民法25条):行方不明の方の代わりに、家庭裁判所が選んだ管理人が遺産分割に参加する方法
  • 失踪宣告(民法30条):長期間生死が分からない方を、法律上死亡したものとみなす方法

どちらを使うかは、「どのくらいの期間、生死が分からないのか」「その方に子などの相続人がいるか」などによって変わります。

2 まず確認すること:本当に「行方不明」か

家庭裁判所の手続きに進む前に、次のような調査で所在が分からないかを確認します。家庭裁判所に申し立てる際にも、どのような調査をしたかを説明する必要があります。

  • 戸籍の附票を取得して、住民票上の住所を確認する
  • その住所あてに手紙を送る(届かない・返事がないかを確認)
  • 親族や知人に心当たりを確認する
  • 住所地の状況(居住の有無)を確認する

住所は分かっているが返事がないだけ、という場合は「行方不明」とはいえず、不在者財産管理人や失踪宣告は使えないことがあります。その場合は、手紙の出し方や連絡方法を工夫して、協議への参加をお願いすることになります。

3 不在者財産管理人を選任して遺産分割をする方法

3-1 どんな制度か

従来の住所や居所を去って、容易に戻る見込みのない方(不在者)に財産管理人がいない場合、家庭裁判所は、利害関係人などの申立てにより、不在者の財産を管理する不在者財産管理人を選任できます(民法25条)。他の共同相続人は、利害関係人として申立てをすることができます。

3-2 申立ての概要

  • 申立先:不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所
  • 費用:収入印紙800円分、連絡用の郵便切手のほか、事案によって管理人の報酬等に充てる予納金の納付を求められることがあります
  • 主な書類:申立書、不在者の戸籍謄本・戸籍附票、財産管理人候補者の住民票等、不在の事実を証する資料、財産に関する資料、利害関係を証する資料(遺産分割であれば被相続人との関係が分かる戸籍など)

必要書類や予納金の額は、家庭裁判所や事案によって異なりますので、申立先の家庭裁判所の案内で確認してください。

3-3 遺産分割には「権限外行為許可」が必要

不在者財産管理人の権限は、原則として財産の保存や管理に限られます。遺産分割協議に参加して合意することは、この権限を超える行為にあたるため、別途、家庭裁判所の権限外行為許可を得る必要があります(民法28条)。

管理人は不在者の利益を守る立場にあるため、不在者の取り分がない、あるいは極端に少ない内容の遺産分割は、許可が得られにくいとされています。一般的には、不在者にも法定相続分に相当する財産を確保する内容で検討することになります。

4 失踪宣告を利用する方法

4-1 普通失踪と危難失踪

種類 要件 死亡とみなされる時期
普通失踪 生死が7年間明らかでない 7年の期間が満了した時
危難失踪 戦争・船舶の沈没などの危難に遭い、危難が去った後1年間生死が明らかでない 危難が去った時

(民法30条・31条)

4-2 手続きの流れ

  1. 利害関係人(配偶者、相続人となる方など)が、不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所に申し立てる(収入印紙800円分、郵便切手、官報公告料が必要です)
  2. 家庭裁判所の調査の後、不在者や不在者の生死を知る人に届出を促す公告が行われる(普通失踪は3か月以上、危難失踪は1か月以上の期間。家事事件手続法148条)
  3. 期間内に届出がなければ、失踪宣告の審判がされる
  4. 審判確定後、申立人が市区町村役場に失踪の届出をする

申立てから審判までには、公告期間があるため少なくとも数か月はかかります。

4-3 「いつ死亡とみなされるか」で相続人が変わる

失踪宣告を使う場合に特に注意したいのが、死亡とみなされる時期です。

  • 行方不明の方が、被相続人より後に死亡したとみなされる場合:その方はいったん相続人となり、その方の相続人(配偶者や子など)が、その相続分を引き継ぎます(数次相続)。
  • 行方不明の方が、被相続人より前に死亡したとみなされる場合:その方は相続人にならず、その方に子がいれば、子が代襲相続人になります。

どちらになるかで、遺産分割に参加すべき人が変わります。失踪宣告を使う場合も、行方不明の方の戸籍を確認して、配偶者や子がいるかを調べておく必要があります。

5 どちらを選ぶか:比較の目安

比較項目 不在者財産管理人 失踪宣告
行方不明の期間 期間の要件はない 原則7年(危難の場合は1年)
行方不明の方の扱い 生存している前提で、取り分を確保する 死亡したものとみなす
主な費用 印紙・切手のほか、予納金が必要になることがある 印紙・切手・官報公告料
遺産分割への影響 管理人が参加し、権限外行為許可が必要 行方不明の方の相続人(または代襲相続人)が参加する

行方不明になってからの期間が短い場合は、失踪宣告の要件を満たさないため、不在者財産管理人の選任を検討することになります。

6 すでに共有になっている不動産の場合

相続登記が済んで、行方不明の方と共有になっている不動産については、令和5年4月から、裁判所の決定を得て、所在等が分からない共有者の持分を取得したり、第三者に譲渡したりする制度も設けられています。詳しくは関連記事をご覧ください。

7 失踪宣告を受けた人の相続登記

失踪宣告とは

長い間行方が分からない人について、家庭裁判所が「失踪宣告」をすると、その人は法律上死亡したものとみなされ、相続が始まります。失踪宣告には次の2種類があります(民法30条)。

  • 普通失踪:生死が7年間分からないとき
  • 危難失踪(特別失踪):戦地、沈没した船、震災などの危難に遭い、その危難が去った後1年間生死が分からないとき

相続が始まる日(登記原因の日付)

失踪宣告を受けた人は、次の時に死亡したものとみなされます(民法31条)。相続登記の登記原因の日付(「○年○月○日相続」)も、この日になります。

  • 普通失踪:行方不明になってから7年の期間が満了した時
  • 危難失踪:危難が去った時

失踪宣告の審判がされた日や、役所に届け出た日ではない点に注意が必要です。誰が相続人になるかも、この「死亡したとみなされる日」の時点で判断します。その日より前に亡くなっていた相続人の分は代襲相続を、後に亡くなった相続人の分は数次相続を考えることになります。

相続登記に必要な書類

  • 失踪宣告の記載がある戸籍(除籍)謄本:失踪宣告の審判が確定し、市区町村に届け出ると、戸籍に失踪宣告と死亡とみなされる日が記載されます
  • 失踪者の出生から(死亡とみなされる日まで)の戸籍、相続人の戸籍・住民票など、通常の相続登記と同じ書類
  • 遺産分割をした場合は遺産分割協議書と印鑑証明書

失踪宣告が取り消されたら

失踪者が生きていることが分かり、家庭裁判所で失踪宣告が取り消された場合は、さかのぼって相続はなかったことになります(民法32条)。登記実務の解説書では、次のように整理されています。

  • 相続登記は、生還した本人を登記権利者、相続人を登記義務者とする共同申請で抹消します。登記原因は「錯誤」とされています。
  • 相続人がすでに不動産を第三者に売っていた場合、取消しの前に当事者双方が事情を知らずにした取引は、効力を失わないとされています(民法32条1項後段)。この場合は、売買代金のうち残っている利益の範囲で返還を求めることになります。

8 司法書士の役割

司法書士は、行方不明の相続人の戸籍・戸籍附票の収集、不在者財産管理人選任や権限外行為許可、失踪宣告の申立書など家庭裁判所に提出する書類の作成、遺産分割協議書の作成、相続登記の申請についてご相談・ご依頼をお受けできます。なお、相続人間で争いがある場合の交渉や代理は司法書士の業務範囲を超えることがあり、その場合は弁護士へのご相談をご案内しています。

9 登記の実務で確認できる取扱い

  • 遺産分割には家庭裁判所の許可が必要:不在者財産管理人が他の相続人と遺産分割協議をすることは、管理人の通常の権限(保存行為など)を超える行為とされ、家庭裁判所の権限外行為の許可が必要です(民法28条)。相続登記には、その許可の審判書を添付します。
  • 法定相続分での登記には許可は不要:法定相続分どおりの相続登記は保存行為にあたるため、許可はいらないとされています。ただし、その後に不動産を売却する場合は、売却について許可が必要です。
  • 印鑑証明書:遺産分割協議書には管理人の印鑑証明書を添付します。家庭裁判所の書記官が発行する管理人の印鑑証明書でも、市区町村の印鑑証明書でもよいとされています。

10 よくある質問

Q. 行方不明の相続人の分を除いて、相続登記だけ先にできますか?

A. 遺産分割をせずに、法定相続分どおりに相続人全員の名義で相続登記をすることは、相続人の一人からでも申請できます。ただし、その後の売却などには行方不明の方の関与が必要になるため、根本的な解決にはなりません。また、相続登記の義務を果たすための方法として、相続人申告登記を利用することもできます。

Q. 不在者財産管理人には誰がなりますか?

A. 申立ての際に候補者を挙げることはできますが、誰を選任するかは家庭裁判所が判断します。利害関係のない親族や、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることがあります。

Q. 失踪宣告を受けた人が生きていたら、どうなりますか?

A. 本人や利害関係人の請求により、失踪宣告は取り消されます(民法32条)。宣告を信じて行われた行為の扱いや、財産の返還の範囲は法律で定められていますので、個別にご相談ください。

11 まとめ・ご相談の目安

行方不明の相続人がいる場合は、その方を除いて遺産分割をすることはできず、不在者財産管理人の選任か失踪宣告の手続きが必要になります。次のような場合は、早めのご相談をご検討ください。

  • 相続人の中に、何年も連絡が取れず、住所も分からない方がいる
  • 手紙を送っても宛先不明で戻ってくる
  • 相続登記の義務化に対応したいが、遺産分割が進められない

当事務所では、戸籍の収集から家庭裁判所に提出する書類の作成、相続登記まで、ご相談・ご依頼をお受けしています。

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