※ この記事は、遺産分割前の相続預金の払戻し制度に関する一般的な解説です。この記事は令和8年9月時点の法令・制度に基づいています。金融機関ごとの手続・必要書類は、各金融機関にご確認ください。
1 結論:相続人は、遺産分割前でも一定額までは単独で預金の払戻しを受けられます
預金者が亡くなったことを金融機関が知ると、口座は原則として凍結され、遺産分割が終わるまで自由に引き出せなくなります。しかし、葬儀費用や当面の生活費などが必要になることもあるため、民法では、各相続人が遺産分割前でも一定額までは単独で払戻しを受けられる制度が設けられています(民法909条の2)。
2 払戻しを受けられる金額
2-1 計算方法
1つの金融機関ごとに、次の計算式で求めた額まで払戻しを受けられます。
相続開始時の預金額 × 3分の1 × 払戻しを受ける相続人の法定相続分
ただし、1つの金融機関につき150万円が上限です(民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令)。
2-2 計算例(仮の数値)
相続人が子2人(法定相続分は各2分の1)で、A銀行の普通預金が相続開始時に600万円だった場合、子1人あたり、600万円×3分の1×2分の1=100万円まで払戻しを受けられます。
同じ条件で預金が1,200万円だった場合は、計算上は200万円になりますが、上限の150万円までとなります。なお、上限は金融機関ごとに判断されるため、複数の金融機関に口座があれば、それぞれで計算します。
3 払戻しを受けたお金の扱い
この制度で払戻しを受けた預金は、その相続人が遺産の一部の分割によって取得したものとみなされます(民法909条の2後段)。つまり、あとで遺産分割をするときには、すでに受け取った分を前提に調整されることになります。「先にもらった分は別枠」というわけではない点に注意しましょう。
4 手続に一般的に必要な書類
金融機関によって異なりますが、一般的には次のような書類が求められます。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等(または法定相続情報一覧図の写し)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 払戻しを受ける相続人の印鑑証明書、本人確認書類
- 金融機関所定の依頼書
相続人全員の戸籍が必要になるのは、法定相続分を確認するためです。戸籍の収集に時間がかかると、払戻しまでにも時間がかかります。
5 注意したいポイント
5-1 相続放棄を考えている場合
払戻しを受けた預金を自分のために使うと、相続財産を処分したものとして、相続放棄ができなくなるおそれがあります(民法921条1号)。借金が多いなど、相続放棄を検討する可能性がある場合は、払戻しを受ける前に専門家へ相談しましょう。
5-2 150万円を超える資金が必要な場合
上限を超える資金が必要な場合は、遺産分割を早めに成立させるほか、家庭裁判所に遺産分割の調停・審判を申し立てたうえで、預貯金の仮分割の仮処分を求める方法もあります(家事事件手続法200条3項)。ただし、要件を満たす必要があります。
5-3 他の相続人への説明
払戻しは単独でできますが、他の相続人が知らないまま引き出すと、後の遺産分割で不信感の原因になることがあります。使い道(葬儀費用など)と金額を記録し、領収書を保管しておくと安心です。
6 司法書士の役割
司法書士は、払戻しや預金の解約手続に必要な戸籍の収集、法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の作成、その後の相続登記について、ご相談・ご依頼をお受けできます。相続人間で払戻しや遺産の分け方をめぐって争いがある場合の交渉は司法書士の業務範囲を超えることがあり、その場合は弁護士へのご相談をご案内しています。
7 よくある質問
Q. 定期預金も対象になりますか?
A. 預貯金債権であれば対象になり得ますが、満期前の定期預金の扱いなどは金融機関によって異なることがあります。事前に確認しましょう。
Q. 葬儀費用以外の目的でも使えますか?
A. 法律上、使い道は限定されていません。ただし、相続放棄を検討している場合は、前述のとおり使い方に注意が必要です。
Q. 口座が凍結される前に、家族がキャッシュカードで引き出してもよいですか?
A. 相続人の一人が無断で引き出すと、他の相続人とのトラブルの原因になり、相続放棄ができなくなるおそれもあります。正式な手続によることをおすすめします。
8 まとめ・ご相談の目安
遺産分割前でも、1つの金融機関につき150万円を上限として、相続人が単独で預金の払戻しを受けられます。次のような場合には、ご相談をご検討ください。
- 葬儀費用などのため、早めに預金を引き出したい
- 払戻しに必要な戸籍を集めるのが大変そう
- 預金の手続とあわせて、不動産の相続登記も進めたい
当事務所では、戸籍の収集、法定相続情報一覧図の作成、遺産分割協議書の作成、相続登記について、ご相談・ご依頼をお受けしています。

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