※ この記事は、借地権(建物の所有を目的として土地を借りる権利)の相続に関する一般的な解説です。この記事は令和8年10月時点の法令・制度に基づいています。個別の事情や契約内容により結論が異なることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
1 結論:借地権は相続でき、相続人が引き継ぐときは地主の承諾は不要です
土地を借りてその上に家を建てている場合、その土地を借りる権利(借地権)は、建物とともに相続財産になり、相続人に引き継がれます(民法896条)。
借地権が賃借権である場合、第三者に譲渡するには地主の承諾が必要ですが(民法612条)、相続は「譲渡」には当たらないと考えられているため、相続人が借地権を引き継ぐことについて地主の承諾は必要ありません。地主から「名義書換料」を求められることがありますが、相続による承継について支払う法律上の義務はないと一般に解されています。
2 相続のしかたによって扱いが変わる
| 承継の方法 | 地主の承諾 |
|---|---|
| 法定相続(相続人全員で共有) | 不要 |
| 遺産分割協議で特定の相続人が取得 | 不要と一般に解されています |
| 遺言で特定の相続人に「相続させる」 | 不要と一般に解されています |
| 遺言で相続人以外の人に遺贈 | 原則として必要(譲渡と同様に扱われます) |
相続人以外の方(孫、子の配偶者、内縁の配偶者など)に借地上の建物を遺したい場合は、地主の承諾が得られるかどうかを含めて、遺言を作る段階から検討しておく必要があります。相続人に対する遺贈の扱いは考え方が分かれる場合があるため、遺言では「相続させる」という表現を用いることが多いです。
3 建物の相続登記をしておく理由
3-1 借地権の対抗力は建物の登記で確保する
借地権は、借地権そのものの登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有していれば、第三者に対抗することができます(借地借家法10条1項)。例えば、地主が土地を第三者に売却した場合でも、建物の登記があれば、新しい所有者に借地権を主張できます。
多くの借地権は賃借権で、借地権自体の登記はされていないのが通常です。そのため、建物の登記名義を整えておくことが、借地権を守るうえで重要になります。
3-2 建物の相続登記も義務化の対象
令和6年4月1日から、相続登記は義務化されており、借地上の建物も対象です。相続により建物の所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
3-3 建物が登記されていない場合
古い借地上の建物では、建物自体の登記(表題登記)がされていないことがあります。この場合は、土地家屋調査士に依頼して表題登記を行い、そのうえで所有権の登記をすることを検討します。登記のない建物では、借地借家法10条による対抗力を主張できないため注意が必要です。
4 相続した後に確認すること
- 借地契約書の内容:契約期間、更新の時期、地代の額と支払方法、増改築や建替えに関する特約などを確認します。
- 地主への連絡:承諾は不要でも、今後の地代の支払者や連絡先を地主に伝えておくと、関係が円滑になります。
- 地代の支払い:遺産分割が終わるまでの間も地代の支払いは続きます。支払いが滞ると、契約解除の問題につながることがあるため、誰が支払うかを相続人間で決めておきましょう。
- 相続税の申告:借地権は相続税の計算上も財産として評価されます。申告が必要かどうかは、税理士にご確認ください。
5 借地上の建物を売却・処分したい場合
相続した借地上の建物に住む予定がない場合、建物とともに借地権を第三者に売却することが考えられます。この場合は借地権の譲渡になるため、地主の承諾が必要です。承諾が得られない場合には、裁判所に地主の承諾に代わる許可を求める制度もあります(借地借家法19条)。
そのほか、地主に借地権を買い取ってもらう、建物を取り壊して土地を返還する(契約内容により原状回復の範囲を確認)、といった方法もあります。地主との条件交渉が必要になる場合は、交渉の内容や金額によって弁護士へのご相談が必要になることがあります。
6 底地(地主側)を相続した場合
底地とは
底地は、他人に建物を建てる目的で貸している土地のことです。土地の所有者(地主)は土地を持っていますが、借地人が借地権(賃借権または地上権)を持っているため、自由に使うことはできません。地主は借地人から地代を受け取ります。
反対に、借地人の側の相続(借地上の建物の相続)は借地の上の家を相続したらで解説しています。
相続すると何が引き継がれるか
- 土地の所有権:相続登記をして、相続人の名義にします。
- 貸主の地位:借地人との土地の賃貸借契約は、そのまま相続人に引き継がれます。契約を結び直す必要は原則としてありません。
- 地代を受け取る権利:相続開始後の地代は、遺産分割が成立するまでは、相続人が法定相続分に応じて取得すると考えられています(最判平成17年9月8日)。
- 預かっている保証金などの返還義務:契約時に保証金を預かっている場合は、その返還義務も引き継ぎます。
相続したら借地人に連絡する
地主が亡くなったことと、今後の地代の支払先を借地人に知らせます。地代の振込先が亡くなった方の口座のままだと、口座の凍結後に振込みができなくなります。遺産分割で底地を取得する人が決まるまでの間は、相続人の代表者が受け取って精算する方法もあります。
相続登記で確認すること
- 土地の登記事項証明書:甲区の所有者と、乙区に地上権や賃借権の登記があるかを確認します。借地権は、登記がなくても借地人が建物を登記していれば第三者に対抗できるため(借地借家法10条1項)、土地の登記簿に借地権が載っていないことも多いです。
- 借地上の建物の登記:借地人の建物の登記事項証明書を取ると、借地人の氏名・住所が分かります。
- 賃貸借契約書:契約期間、地代の額、更新料・承諾料の定めなどを確認します。契約書がない場合は、地代の受取記録などから契約内容を整理します。
- 固定資産税評価額:相続登記の登録免許税は、底地であっても固定資産税評価額を基に計算します。
将来の整理の方法
底地は自由に使えず、売却しようとしても買い手が限られます。将来に向けた整理の方法には、次のようなものがあります。
- 借地人に底地を買い取ってもらう
- 地主と借地人が共同で、土地と建物をまとめて第三者に売却する
- 底地と借地権の一部を交換して、それぞれが完全な所有権の土地を持つ
いずれも借地人との合意が必要で、価格や割合の交渉が中心になります。相手方との交渉の代理は、扱う金額によっては弁護士の業務になります。売却や交換による登記の手続きは、当事務所でもご相談を承っています。税金の扱いは税理士にご確認ください。
7 司法書士の役割
司法書士は、借地上の建物の相続登記、遺産分割協議書の作成、相続人の戸籍の収集、遺言書の作成サポートについてご相談・ご依頼をお受けできます。建物の表題登記が必要な場合は土地家屋調査士、相続税については税理士と連携して進めます。地主との交渉の代理は、司法書士が対応できる範囲に限りがあるため、必要に応じて弁護士へのご相談をご案内しています。
8 よくある質問
Q. 地主から「相続を機に土地を返してほしい」と言われました。
A. 借地権は相続によって当然に相続人に引き継がれるため、相続を理由に直ちに明け渡す必要はありません。契約期間の満了や更新の問題が絡む場合は、契約内容を確認したうえで専門家にご相談ください。
Q. 借地契約書が見つかりません。
A. 契約書がなくても、地代の支払い実績などから借地関係が認められることがあります。地主に写しがないか確認し、地代の領収書や振込記録を保管しておきましょう。
Q. 土地の登記簿には何も書かれていませんが、借地権は大丈夫ですか?
A. 賃借権の借地権は、土地の登記簿に記載されていないのが一般的です。その場合、建物の登記によって対抗力を確保することになりますので、建物の登記名義を確認してください。
9 まとめ・ご相談の目安
借地権は相続財産であり、相続人が引き継ぐ場合は地主の承諾は不要です。一方、借地権を守るためには建物の登記を整えておくことが重要です。次のような場合は、ご相談をご検討ください。
- 借地上の建物の名義が、亡くなった方のままになっている
- 建物が登記されていない
- 相続人以外の人に借地上の建物を遺したい
建物の相続登記の流れと必要書類は相続登記の手続きの流れと必要書類、費用は相続登記のご案内(料金)をご覧ください。建物が登記されていない場合は相続した未登記建物はどうする?も参考にしてください。
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