この記事は一般的な解説です。令和8年10月時点の法令・運用に基づいており、個別の事情により結論が変わることがあります。
結論:死後事務委任契約は、亡くなった後の葬儀・納骨・遺品整理・各種解約などを、生前のうちに信頼できる人へ頼んでおく契約です。遺言では決められない「事務」を任せられる点が特徴で、公正証書で作り、遺言や任意後見契約と組み合わせて準備するのが一般的です。
1 死後事務委任契約とは
自分が亡くなった後の事務(葬儀・納骨・遺品整理・役所や契約先への届出など)を、生前に受任者へ依頼しておく契約です。委任契約は、委任者や受任者の死亡で終了するのが原則です(民法653条1号)。しかし、委任者が死亡しても契約を終了させない旨の合意は有効と考えられており、死後事務委任契約では、契約書にその旨をはっきり定めておきます。
2 任せられる事務の例
- 葬儀・火葬・納骨・永代供養の手配と費用の支払い
- 病院・施設の費用の精算、退去の手続き
- 賃貸住宅の解約・明渡し、遺品の整理
- 公共料金・携帯電話・インターネットなどの解約
- 親族・知人への連絡
- SNSやメールアカウントの削除
どの事務を任せるかは、本人の希望と、親族の有無・関わり方によって決めます。任せる範囲は、契約書に具体的に書いておくことが大切です。
3 遺言・任意後見との違い
| 制度 | 任せる内容 | 効力が生じる時期 |
|---|---|---|
| 遺言 | 財産を誰に渡すかを決める | 死亡時から |
| 任意後見契約 | 判断能力が低下した後の財産管理や身上保護 | 判断能力低下後、本人が亡くなるまで |
| 死後事務委任契約 | 亡くなった後の事務 | 死亡時から |
葬儀の方法や遺品整理などは、遺言に書いても法的な効力が生じないと考えられています。そのため、死後の事務は死後事務委任契約で、財産の行き先は遺言で、というように役割を分けて準備します。生前から死後まで切れ目なく備えるには、3つを組み合わせます。
4 契約を結ぶときの注意点
公正証書で作る
口約束でも契約は成立しますが、本人の意思を明確にし、後のトラブルを防ぐため、公正証書にしておくのが安心です。公証人の手数料は、契約の内容によって公証人手数料令に基づいて決まります。金額は公証役場で確認してください。
費用の預け方と精算
葬儀などの費用は、受任者に預けておくことが多くあります。預かり金の保管方法や精算方法、残金の扱いを、契約で決めておきます。
相続人との関係
相続人は委任者の地位を引き継ぐため、契約を解除されるおそれがあります。相続人による解除を制限する条項を検討するとともに、家族に契約の内容を伝えておくとトラブルを減らせます。
遺言との調整
財産の処分を伴う事務が遺言の内容とぶつからないよう、「遺言に別の定めがある場合は遺言による」といった調整をしておきます。
死亡届は誰が出せるか
死亡届の届出人は戸籍法87条で決まっています。同居の親族、その他の同居者、家主・地主・管理人が届出義務者とされ、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人および任意後見受任者も届出ができるとされています。死後事務の受任者であるというだけでは届出人にならないため、任意後見契約を結んでおくと、届出の面で役立つ場合があります。
5 こんな方に向いています
- 身寄りがない、または親族と疎遠で、死後の手続きを頼める人がいない
- 子どもに負担をかけたくない
- 内縁のパートナーなど、法律上の相続人ではない人に手続きを任せたい
- 葬儀や納骨の方法に希望がある
内縁のパートナーは法律上の相続人にならないため、手続きを任せるだけでなく、財産を残したい場合は遺言などの準備も必要です。
6 受任者を選ぶときのポイント
- 信頼できる親族・知人のほか、専門職や法人に依頼することもできます。
- 受任者が先に亡くなったり、判断能力が低下したりした場合に備えて、受任者の側の体制も確認しておきます。
- 報酬の有無と金額、実費の負担を契約書に明記します。
- 賃貸住宅の明渡しや納税手続など、専門的な判断が必要な事務は、必要に応じてそれぞれの専門家(税の計算や申告は税理士など)に確認します。
7 当事務所の実務から:死後事務委任契約で取り決める事務
当事務所で死後事務委任契約をお受けする場合、主に次のような事務を契約で取り決めます。
- 亡くなった直後の緊急対応
- 葬儀・火葬・遺骨の散骨に関する事務
- 医療機関の退院手続き、医療費などの支払い、入院保証金などの返還金の受領
- 賃貸住宅の解約と、明渡しまでの管理
- 住居内の遺品整理(遺品整理業者の手配)
- 電気・ガス・水道、携帯電話・インターネット、クレジットカード、保険など各種契約の解約・清算
- 住民税・国民健康保険料・固定資産税などの納税手続
どの事務を任せるかは、ご本人の希望と、親族の有無・関わり方によって決めます。遺言や任意後見契約とあわせて準備することもできます。
8 よくある質問
Q. 死後事務委任契約だけで財産を渡せますか?
財産を特定の人に渡すことは、遺言で定めるのが原則です。死後事務の費用以外の財産の行き先は、遺言で決めておきましょう。
Q. 死後事務委任契約は、いつ始まりますか?
契約は結んだ時点で成立しますが、受任者が事務を行うのは、本人が亡くなった後です。
Q. 契約書の作成は司法書士に相談できますか?
契約書や公正証書の原案づくりなど、書類の作成は司法書士に相談できる範囲です。遺言や任意後見契約と合わせて準備したい場合も、あわせてご相談ください。
9 まとめ
死後事務委任契約は、亡くなった後の葬儀や解約などを生前に任せておく契約です。遺言・任意後見と組み合わせ、公正証書で作っておくと安心です。
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この記事の監修者
司法書士 川西 祐輔(ウィルパートナー司法書士事務所 代表)
大阪司法書士会所属(登録番号 大阪第4855号)/簡裁訴訟代理等関係業務認定/公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員。相続登記・遺言・相続放棄・成年後見・債務整理・不動産登記・商業登記を取り扱っています。