コラム

配偶者居住権が登記されていても成立していないことがある?成立要件を確認する

※ 本文中の事例は、実務で見られる典型的な問題を一般化した仮想の例であり、実在の依頼者・案件ではありません。この記事は令和8年9月時点の法令・制度に基づいています。

1 結論:配偶者居住権は「相続開始時に住んでいたこと」が前提の権利です

配偶者居住権は、令和2年の民法改正で新設された制度で、亡くなった方の配偶者が、その方が亡くなった時点で実際に住んでいた建物に、引き続き無償で住み続けることができる権利です。ポイントは、相続開始の時点で実際にその建物に「居住していた」ことが成立の前提になっているという点です。この要件を欠く場合、登記の有無にかかわらず、権利自体が成立していないことになります。

2 配偶者居住権の成立要件

民法1028条1項は、次のように定めています。「被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する。」つまり、

  1. 被相続人の財産に属していた建物であること
  2. 配偶者が、相続開始の時にその建物に居住していたこと
  3. 遺産分割・遺贈・死因贈与のいずれかにより配偶者居住権を取得させることが定められたこと(各号の要件)

の3点が必要です。このうち②の「相続開始の時の居住」は、事実(実際に住んでいたかどうか)の問題です。

3 登記されていても要件を欠けば成立していないことがあります

配偶者居住権の設定登記は、あくまで「配偶者居住権という権利が成立していること」を対外的に示すための手続です。登記がされていても、そもそも成立要件(相続開始時の居住)を欠いていた場合には、権利自体が発生していなかったことになり得ます。たとえば、被相続人が亡くなった時点で、配偶者が長期間にわたり介護施設等に入所しており、その建物での日常生活の実体がなかったようなケースでは、「相続開始の時に居住していた」とはいえないと判断される可能性があります。

4 該当性の判断は個別の事情によります

どの程度の不在期間であれば「居住していた」といえなくなるのか、一時的な入院・入所と、生活の本拠が移ったと評価される長期入所との線引きは、法律上一律の基準があるわけではなく、個々の事情(入所の経緯、自宅に戻る予定の有無、生活の実態など)を踏まえた判断が必要です。この判断そのものは、事案ごとの評価を伴うため、最終的には弁護士等の専門家による検討が必要になる場合があります。

5 登記の抹消を検討する場合の一般的な流れ

配偶者居住権が成立していなかったと考えられる場合、その旨を登記原因とする抹消登記を申請することが考えられます。この場合、登記原因証明情報には、居住の実体がなかったと判断した具体的な事実(施設入所の期間、生活の本拠の状況など)を記載することになります。抹消登記の申請には、原則として、登記名義人(配偶者居住権者)の協力(共同申請)が必要になる点に留意が必要です。

6 司法書士の役割

配偶者居住権の設定登記・抹消登記の手続については、司法書士がご相談・ご依頼をお受けしています。もっとも、「居住の実体があったかどうか」という事実の評価や、当事者間で見解が分かれる場合の交渉については、司法書士の業務範囲を超えることがあり、その場合は弁護士へのご相談をご案内しています。

7 よくある質問

Q. 配偶者が入院中に被相続人が亡くなった場合はどうなりますか?

A. 一時的な入院であれば、生活の本拠は自宅にあったと評価されることが一般的と考えられますが、最終的には個別の事情によります。

Q. 配偶者居住権は登記しないとどうなりますか?

A. 配偶者居住権は登記をしなければ、その不動産を取得した第三者に対抗(権利を主張)することができません。権利自体の成立要件(相続開始時の居住等)とは別の問題です。

Q. 配偶者居住権を合意で消滅させることはできますか?

A. 配偶者居住権者と不動産の所有者との間で、権利を消滅させる合意をすることは可能です。この場合と、成立要件を欠いていたために抹消する場合とでは、登記原因が異なります。

8 まとめ・ご相談の目安

配偶者居住権は、相続開始時にその建物に実際に住んでいたことが成立の前提となる権利です。次のような場合には、ご相談をご検討ください。

  • 配偶者居住権の設定を検討しているが、要件を満たすか確認したい
  • 既に設定された配偶者居住権について、成立していたか疑問がある
  • 配偶者居住権付きの不動産の売買・登記を検討している

当事務所では、配偶者居住権の設定登記・抹消登記の手続について、ご相談・ご依頼をお受けしています。居住の実体の評価をめぐって当事者間で見解が分かれる場合は、弁護士へのご相談をご案内します。

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