※ この記事は、戸籍(除籍・改製原戸籍)の一部が取得できない場合の相続登記に関する一般的な解説です。この記事は令和8年10月時点の法令・通達に基づいています。個別の事情により結論が異なることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
1 結論:多くの場合、市区町村の「交付できない」旨の証明書で足ります
相続登記では、亡くなった方(被相続人)の出生から死亡までの戸籍・除籍・改製原戸籍をそろえて、相続人が誰かを確認します。ところが、古い除籍は、保存期間の経過や戦災・災害などによって、市区町村に残っていないことがあります。
このような場合について、法務省は平成28年に通達を出し、戸籍と残っている除籍等の謄本に加えて、「除籍等の謄本を交付することができない」旨の市町村長の証明書を提供すれば、相続登記をすることができるとしました(平成28年3月11日付け法務省民二第219号)。それまで求められていた「他に相続人はいない」旨の相続人全員の証明書(印鑑証明書付き)は、この場合は不要とされています。
ただし、明治5年式戸籍(いわゆる壬申戸籍)は、この通達の対象から除かれています。
2 戸籍が取れないときの手順
- 取れる範囲の戸籍をすべて集める:被相続人の死亡時の戸籍から順にさかのぼり、どの時期の除籍・改製原戸籍が取れないのかを特定します。
- 市区町村から証明書をもらう:取れない除籍等について、市区町村に「交付することができない」旨の証明書を請求します。書面の名称は「廃棄証明書」「滅失証明書」など、市区町村によって異なることがあります。
- 相続人を確認する:残っている戸籍の記載から、相続人の範囲を確認します。
- 相続登記を申請する:戸籍一式と証明書を添付して申請します。
3 当事務所の実務から:法務局に事前に相談するケース
当事務所の実務メモ(相続登記で戸籍や住所の証明書がそろわない場合の取扱いをまとめたもの)では、戸籍の一部が取れない場合の扱いを次のように整理しています。
- 戸籍の一部が廃棄されているだけの場合:上申書は付けず、市区町村の「交付することができない」旨の証明書を添付します(上記の通達に沿った扱い)。
- 取れた戸籍から、ほかにも相続人がいる可能性がうかがえる場合:例えば、取れない時期に婚姻や子の出生があった可能性が戸籍の記載から読み取れる場合です。このときは、申請前に、資料を添えて管轄の法務局へ相談票をFAXし、扱いを確認します。相続人全員からの上申書などを求められる可能性があるためです。
なお、戸籍ではなく、被相続人の住民票の除票や戸籍の附票が廃棄されていて、登記簿上の住所とのつながりが証明できない場合は、別の問題になります。この場合は、権利証(登記済証)や固定資産税の納税通知書、上申書などで同一人物であることを示す必要があり、必要な書類は法務局の判断によって変わることがあります。詳しくは住所がつながらないときの対処法をご覧ください。
4 以前の取扱いとの違い(平成28年通達)
戸籍が取れない場合の取扱いは、平成28年の通達で大きく変わりました。登記実務の解説書と先例で確認できる経緯は、次のとおりです。
- 以前の取扱い:除籍謄本などが廃棄・滅失で取れない場合は、市区町村長の「交付できない」旨の証明書に加えて、相続人全員が「ほかに相続人はいない」と証明する書面(印鑑証明書付き)を添付するのが登記実務でした(昭和44年3月3日民事甲第373号など)。相続人が多いと、全員から署名・押印をもらう負担がありました。
- 現在の取扱い:平成28年3月11日民二第219号通達により、市区町村長の「除籍等の謄本を交付することができない」旨の証明書があれば、「ほかに相続人はいない」旨の証明書がなくても相続登記をしてよいとされ、従前の取扱いは変更されました。
古い解説やインターネットの情報には、以前の取扱いのまま「相続人全員の証明書が必要」と書かれているものもあります。現在の取扱いを前提に、必要な書類を確認しましょう。
5 注意したいこと
- 「取れない」と「まだ取っていない」を区別する:本籍地が何度も変わっている場合、別の市区町村に残っていることがあります。転籍の記載をたどって、本当に残っていないかを確認します。
- 広域交付で取れない古い戸籍がある:令和6年3月から、本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍を請求できるようになりましたが、コンピュータ化されていない一部の古い戸籍は対象外とされています。取れなかった場合は、本籍地の市区町村に確認します。
- 相続登記以外の手続きでは扱いが異なることがある:預貯金の解約などでは、金融機関ごとに必要書類が決まっています。通達は登記の扱いなので、ほかの手続きでは別途確認が必要です。
6 当事務所でのご相談から:戸籍が取れないときにまず確認すること
戸籍が廃棄されていて取得できない場合、当事務所では、まず市区町村で取得できる代わりの証明書類がないかを確認します。そのうえで、必要に応じて上申書など別の方法を検討します。
7 よくある質問
Q. 戸籍が取れないと、相続登記はできないのですか?
A. できないわけではありません。取れる戸籍と、市区町村の「交付することができない」旨の証明書をそろえれば、登記できる場合がほとんどです。
Q. 法定相続情報一覧図は作れますか?
A. 作成を検討できます。必要な書類は、法務局の案内で確認してください(法定相続情報一覧図とは?)。
8 司法書士の役割
司法書士は、相続登記に必要な範囲で戸籍等を職務上請求により取得し、戸籍のつながりの確認、取れない除籍の証明書の請求、相続関係説明図の作成、相続登記の申請まで、ご相談・ご依頼をお受けできます。法務局への事前の相談も、必要に応じて当事務所で行います。
9 まとめ・ご相談の目安
古い戸籍が廃棄・滅失していても、多くの場合は市区町村の証明書を添付して相続登記ができます。ただし、ほかに相続人がいる可能性がある場合や、住所のつながりが証明できない場合は、追加の対応が必要になることがあります。次のような場合は、ご相談をご検討ください。
- 市区町村から「古い戸籍は廃棄済み」と言われた
- 本籍地が何度も変わっていて、どこまで集めればよいか分からない
- 登記簿の住所と亡くなった方の住所がつながらない
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