※ この記事は、自筆証書遺言の方式に関する一般的な解説です。この記事は令和8年9月時点の法令・制度に基づいています。令和8年6月24日に遺言制度の見直しを含む改正民法が公布されており、施行後は一部の要件が変わる予定です(本文6参照)。
1 結論:自筆証書遺言は「全文・日付・氏名の自書」と「押印」が必要で、方式を欠くと無効になるおそれがあります
自筆証書遺言は、紙とペンがあれば費用をかけずに作れる反面、法律で定められた方式を守らないと無効になるおそれがあります。現行の民法968条1項は、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないと定めています。
2 無効になりやすい典型例
2-1 本文をパソコンで作成した・代筆してもらった
本文は遺言者本人が手書きする必要があります。パソコンで作成した本文や、家族に代筆してもらった遺言書は、自筆証書遺言としては無効になるおそれがあります。
ただし、遺言書に添付する財産目録は、パソコンで作成したものや登記事項証明書・通帳のコピーでもよいとされています。その場合は、目録の毎葉(両面に記載がある場合は両面)に署名し、押印する必要があります(民法968条2項)。
2-2 日付があいまい
「令和8年9月吉日」のように、日付が特定できない書き方は無効とされる可能性があります(最高裁昭和54年5月31日判決参照)。年月日を具体的に書きましょう。
2-3 署名・押印がない
氏名の自書と押印が必要です。押印は実印でなくてもよいとされていますが、本人のものであることを明確にするため、実印を用いることも多くあります。
2-4 訂正の方法が正しくない
書き間違いを訂正するときは、変更の場所を指示し、変更した旨を付記して特に署名し、かつ変更の場所に押印する必要があります(民法968条3項)。二重線で消して書き直しただけでは、訂正の効力が生じないおそれがあります。訂正が多くなる場合は、書き直すほうが安全です。
2-5 夫婦で1通の遺言書を作った
2人以上の者が同一の証書で遺言をすることはできません(民法975条)。夫婦であっても、遺言書はそれぞれ別に作成します。
3 方式は守っていても問題になりやすいケース
- 財産の特定が不十分:「自宅を長男に」だけでは、どの不動産か争いになることがあります。登記事項証明書のとおり、所在・地番・家屋番号などで特定しましょう。
- 遺言能力が争われる:遺言をする時に意思能力が必要です(民法963条)。認知症の診断がある場合などは、作成時の状況を記録しておくことも検討します。
- 遺留分への配慮がない:一部の相続人の遺留分を侵害する内容だと、遺言は有効でも、後に遺留分侵害額の請求がされる可能性があります。
4 無効のリスクを減らす方法
- 公正証書遺言:公証人が関与して作成するため、方式の不備で無効になるリスクが小さく、検認も不要です。
- 自筆証書遺言書保管制度:法務局に預けると、様式の確認を受けられ、検認も不要になります。ただし、法務局は内容の有効性までは確認しません。
- 専門家による文案の確認:自筆で作成する場合も、事前に文案を専門家に確認してもらうと安心です。
5 見つかった遺言書が方式を欠いていたら
自宅などで見つかった自筆証書遺言は、まず家庭裁判所で検認を受けます。検認は遺言の有効・無効を判断する手続ではないため、検認を受けても方式の不備が治るわけではありません。遺言が無効と判断される場合は、相続人全員で遺産分割協議を行うことになります。有効性に争いがある場合は、弁護士への相談が必要になります。
6 令和8年改正民法による見直し(施行前)
令和8年6月17日に成立し、同月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」により、自筆証書遺言の押印を任意とする見直しが行われます(公布から1年を超えない範囲で政令で定める日に施行予定)。また、パソコン等で作成したデータ等を法務局が保管する「保管証書遺言」も創設される予定です(公布から3年を超えない範囲で政令で定める日に施行予定)。
施行日より前に作成する遺言書には、現行法どおり押印が必要です。作成時点でどの規定が適用されるかを確認しましょう。
7 司法書士の役割
司法書士は、遺言書の文案作成のサポート、財産目録の作成、法務局の保管制度の利用手続、相続開始後の検認申立書の作成や遺言に基づく相続登記について、ご相談・ご依頼をお受けできます。遺言の有効性をめぐる争いの代理は司法書士の業務範囲を超えることがあり、その場合は弁護士へのご相談をご案内しています。
8 よくある質問
Q. 鉛筆で書いた遺言書は有効ですか?
A. 鉛筆であることだけで直ちに無効になるわけではないと考えられていますが、改ざんのおそれがあるため、消えにくいボールペンなどで書くことをおすすめします。
Q. 封筒に入れて封をする必要はありますか?
A. 封入は有効要件ではありません。ただし、改ざん防止のために封をする場合は、家庭裁判所で開封する必要があります。法務局の保管制度を利用する場合は、封をせずに持参します。
Q. 何歳から遺言書を作れますか?
A. 15歳に達した人は遺言をすることができます(民法961条)。
9 まとめ・ご相談の目安
自筆証書遺言は、全文・日付・氏名の自書と押印が必要で、日付や訂正の方法にも注意が必要です。次のような場合には、ご相談をご検討ください。
- 自筆で遺言書を作りたいが、書き方に不安がある
- すでに書いた遺言書が有効か確認したい
- 公正証書遺言や保管制度とどちらがよいか迷っている
当事務所では、遺言書作成のサポート、保管制度の利用、相続開始後の手続について、ご相談・ご依頼をお受けしています。

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