※ この記事は、家庭裁判所での相続放棄の手続きに関する一般的な解説です。この記事は令和8年9月時点の法令・制度に基づいています。個別の事情により結論が異なることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
1 相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった方(被相続人)の財産も借金も一切引き継がないことにする手続きです。相続放棄をした人は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
相続放棄は、家庭裁判所に「申述」という形で申し出て、受理されることで効力が生じます(民法938条)。親族間で「私は何もいらない」と伝えたり、遺産分割協議書で財産を取得しないことにしたりするだけでは、法律上の相続放棄にはなりません。この違いは、特に借金がある場合に大きな差になります。
2 相続放棄を検討する主なケース
- 被相続人に、財産を上回る借金や保証債務がある
- 疎遠だった親族が亡くなり、相続に関わりたくない
- 特定の相続人に財産を集中させたい(ただし、この目的であれば遺産分割協議で足りることも多い)
借金の有無が分からない場合は、まず財産と借金の調査を行います。プラスの財産の範囲で借金を支払う「限定承認」という方法もあります。
3 期限:自分が相続人になったと知った時から3か月以内
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内にする必要があります(民法915条1項)。この期間を「熟慮期間」といいます。調査に時間がかかる場合は、期間内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てることができます。
起算点や、3か月を過ぎてから借金が見つかった場合の考え方は、関連記事「相続放棄の『3か月』はいつから数える?」で詳しく解説しています。
4 手続きの流れ
4-1 申述先と費用
- 申述先:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 費用:申述人1人につき収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(金額は家庭裁判所ごとに異なります)
- 申述する人:相続放棄をする相続人本人(未成年者などは法定代理人が行います)
4-2 主な必要書類
すべての場合に共通して、次のような書類が必要です。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
このほか、誰が申述するかによって、追加の戸籍が必要になります。
| 申述する人 | 追加で必要になる主な戸籍 |
|---|---|
| 配偶者 | 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 |
| 子 | 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 |
| 父母・祖父母 | 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、子(およびその代襲者)が亡くなっている場合はその死亡の記載のある戸籍謄本 など |
| 兄弟姉妹・甥姪 | 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本、被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本 など |
父母や兄弟姉妹が申述する場合は、先順位の相続人がいないことを戸籍で示す必要があるため、集める戸籍が多くなります。同じ被相続人について先に申述した方がいて、すでに提出済みの戸籍は、重ねて提出しなくてよい場合があります。
4-3 申述後の流れ
- 家庭裁判所に申述書と必要書類を提出する
- 家庭裁判所から、申述の意思や経緯を確認する照会書(質問書)が届くことがあるので、回答して返送する
- 受理されると「相続放棄申述受理通知書」が届く
- 債権者や登記手続きのために必要であれば、「相続放棄申述受理証明書」の交付を申請する
5 放棄する前に注意したいこと
5-1 財産を処分すると放棄できなくなることがある
相続財産を処分した場合などには、相続を承認したものとみなされ(法定単純承認・民法921条)、相続放棄ができなくなることがあります。被相続人の預金を引き出して自分のために使う、不動産や車を売却する、といった行為は避けてください。判断に迷う行為は、手を付ける前にご相談ください。
5-2 次の順位の相続人に相続権が移る
子が全員相続放棄をすると、次は父母などの直系尊属、直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人になります。借金を理由に放棄する場合、放棄したことで親族に借金の請求が向かうことがあるため、次順位の方へ事前に知らせておくことも検討してください。なお、相続放棄は代襲相続の原因にならないため、放棄した人の子が代わりに相続人になることはありません。
5-3 放棄後も財産の保存が必要な場合がある
相続放棄をした時点で、相続財産を現に占有している人は、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの間、その財産を保存しなければなりません(民法940条1項)。実家に住んでいた方などは注意が必要です。
5-4 一度受理されると撤回できない
相続放棄は、熟慮期間内であっても撤回することはできません(民法919条1項)。後から価値のある財産が見つかっても取り消せないのが原則ですので、財産調査を十分にしてから判断しましょう。
6 司法書士の役割
司法書士は、家庭裁判所に提出する相続放棄申述書や期間伸長申立書の作成、必要な戸籍の収集、放棄後の相続登記についてご相談・ご依頼をお受けできます。なお、債権者との交渉や、相続人間の争いの代理などは司法書士の業務範囲を超えることがあり、その場合は弁護士へのご相談をご案内しています。
7 登記の実務で確認できる取扱い
相続放棄が受理されると、家庭裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きます。別に申請すれば相続放棄申述受理証明書も発行されます。
- 相続登記では、放棄した人がいることを示す書類として、受理証明書のほか、受理通知書も相続を証する情報として扱われています。
- 金融機関や他の相続人から、受理証明書の提出を求められることがあります。複数の手続きで使う場合は、証明書をあわせて取得しておくと便利です。
- 放棄した人は初めから相続人でなかったことになるため、その人の子が代襲相続することはありません。次の順位の相続人を確定する戸籍が追加で必要になることがあります。
8 よくある質問
Q. 家族全員でまとめて申述できますか?
A. 相続放棄は一人ひとりが行う手続きで、申述書も各自が作成します。ただし、同じ家庭裁判所にまとめて提出することはでき、共通する戸籍は1通で足りる場合があります。
Q. 相続放棄をしたら、生命保険金は受け取れませんか?
A. 受取人として指定された方が受け取る生命保険金は、原則として受取人固有の財産と考えられており、相続放棄をしても受け取れるとされています。ただし、契約内容によって扱いが異なるため、個別に確認が必要です。
Q. 相続放棄をしたことは、債権者に自動的に伝わりますか?
A. 家庭裁判所から債権者に通知されるわけではありません。督促が来た場合は、受理通知書の写しや受理証明書を示して、相続放棄をしたことを伝えます。
9 まとめ・ご相談の目安
相続放棄は、家庭裁判所に申述して受理されることで初めて効力が生じ、原則として3か月の期限があります。次のような場合は、早めのご相談をご検討ください。
- 被相続人に借金や保証債務があるかもしれない
- 3か月の期限が迫っている、または過ぎてしまったかもしれない
- 父母や兄弟姉妹として申述するため、戸籍の収集が大変
当事務所では、相続放棄申述書の作成から戸籍の収集まで、ご相談・ご依頼をお受けしています。
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- 相続放棄:報酬 1人目 44,000円(税込)
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