※ この記事は、相続の限定承認に関する一般的な解説です。この記事は令和8年9月時点の法令・制度に基づいています。個別の事情により結論が異なることがありますので、具体的な判断は専門家にご相談ください。
1 結論:限定承認は、相続したプラスの財産の範囲内でだけ借金を支払う方法です
相続の方法には、すべてを引き継ぐ単純承認、すべてを引き継がない相続放棄のほかに、限定承認があります。限定承認をすると、相続によって得た財産の限度でのみ、被相続人の債務や遺贈を弁済すればよいことになります(民法922条)。
借金がどれだけあるか分からない場合や、借金はあるが自宅など手放したくない財産がある場合に、選択肢となることがあります。
2 限定承認の申述の基本
- 申述する人:相続人全員が共同して行う必要があります(民法923条)。相続放棄をした人は除かれます。
- 期間:自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条1項)
- 申述先:被相続人の最後の住所地の家庭裁判所
- 費用:収入印紙800円分と、連絡用の郵便切手(金額は裁判所ごとに異なります)
- 主な必要書類:申述書、財産目録(民法924条)、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等、住民票除票または戸籍附票、申述人全員の戸籍謄本など
3 申述が受理された後の流れ
- 相続人が複数いる場合、家庭裁判所が相続人の中から相続財産の清算人を選任します(民法936条1項)。
- 限定承認者(または清算人)は、すべての相続債権者・受遺者に対し、限定承認をしたことと、一定の期間(2か月以上)内に請求の申出をすべきことを官報で公告します(民法927条)。知れている債権者には個別に催告します。
- 期間満了後、相続財産を換価(売却など)し、債権者に弁済します。
- 弁済後に財産が残れば、相続人が取得します。
このように、限定承認は申述して終わりではなく、その後の清算手続に相応の時間と手間がかかります。
4 相続放棄との違い
- 人数:相続放棄は一人ずつできますが、限定承認は相続人全員で行う必要があります。一人でも反対すればできません。
- 財産の扱い:相続放棄はすべての財産を手放しますが、限定承認では、清算後に残った財産を取得できる可能性があります。
- 手続の負担:限定承認は、公告・換価・弁済などの清算手続が必要で、相続放棄より負担が大きくなります。
5 注意したいポイント
5-1 自宅を残したい場合(先買権)
限定承認では、相続財産を競売で換価するのが原則ですが、相続人は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って価額を弁済することで、競売を止めて財産を取得することができます(民法932条ただし書)。自宅を残したい場合に検討される方法ですが、評価額に相当する資金が必要です。
5-2 税金(みなし譲渡所得課税)
限定承認をすると、被相続人から相続人へ財産が時価で譲渡されたものとみなされ、被相続人に譲渡所得税が課される場合があります(所得税法59条1項1号)。不動産などの含み益が大きい場合は特に注意が必要で、事前に税理士へ相談しましょう。
5-3 財産を隠したり使ったりしない
限定承認をした後でも、相続財産を隠したり、自分のために消費したり、悪意で財産目録に記載しなかったりすると、単純承認をしたものとみなされることがあります(民法921条3号)。
6 限定承認以外の選択肢も含めて検討する
借金の全体像が分からない場合は、まず信用情報機関への開示請求などで調査を行い、3か月以内に判断が難しいときは、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てる方法もあります(民法915条1項ただし書)。調査の結果、借金が財産を明らかに上回るなら相続放棄、財産が上回るなら単純承認、というように判断できる場合も多く、限定承認が実際に選ばれる場面は限られます。
7 司法書士の役割
司法書士は、戸籍の収集、限定承認申述書・財産目録・期間伸長申立書の作成、相続財産に含まれる不動産の登記について、ご相談・ご依頼をお受けできます。債権者との交渉や、清算手続の中での紛争の代理は、内容や金額によっては司法書士の業務範囲を超えることがあり、その場合は弁護士へのご相談をご案内しています。税金については税理士との連携が必要です。
8 よくある質問
Q. 相続人の一人が相続放棄をした場合、残りの相続人で限定承認できますか?
A. 相続放棄をした人ははじめから相続人でなかったものとみなされるため、残りの相続人全員で限定承認をすることができます。
Q. 限定承認の申述が受理されるまで、どのくらいかかりますか?
A. 裁判所の状況や書類の準備状況によって異なります。3か月の期間内に申述する必要があるため、早めに準備を始めましょう。
Q. 限定承認をした後、不動産の登記はどうなりますか?
A. 相続を原因とする所有権移転登記をしたうえで、換価のための売却などを行うのが一般的です。具体的な手続は事案に応じて確認が必要です。
9 まとめ・ご相談の目安
限定承認は、相続したプラスの財産の範囲内でだけ借金を支払う方法ですが、相続人全員で行う必要があり、手続や税金の負担もあります。次のような場合には、ご相談をご検討ください。
- 借金がどれだけあるか分からず、相続するか迷っている
- 借金はあるが、自宅など残したい財産がある
- 限定承認と相続放棄のどちらが適しているか知りたい
当事務所では、戸籍の収集、限定承認申述書・相続放棄申述書の作成、相続登記について、ご相談・ご依頼をお受けしています。

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